安くてそこそこのクオリティの同人誌を作る方法
美月でんでん著
2015年12月6日公開
2016年9月3日更新
2017年12月3日更新
2020年9月12日更新
※この文章はとあるサークルの内部文書の記事として2014年9月に寄稿したものを一部編集したものです.
こんな人に読んで欲しい!
- 発行部数が少ないので印刷会社に印刷を頼むと高くついてしまうのを何とかしたいと思っている人.
- コピー本のクオリティを上げたいと思っている人.
目次
- 1. はじめに
- 2. クオリティ補完計画・その1:中綴じにする
- 3. クオリティ補完計画・その2:化粧裁ちする
- 4. クオリティ補完計画・その3:表紙をラミネート加工する
- 5. 印刷会社との比較
- 6. まとめ
- おまけ:さらに安く抑えるために
- 脚注
1. はじめに
同人誌の印刷代はお高い
突然ですが,そこのアナタ! 同人誌を出したことありますか? コミケ会場に所狭しと並ぶ同人誌に触れて創作意欲をかき立てられたり, アニメを見てキャラに萌え,彼・彼女への愛を本という形で表現したいと思ったり, あるいは“アカピー”と“オボニャン”の『妖怪ウソッチ』を描きたいと思ったりしたことはありませんか?
しかし,同人誌をいざ出そうとするときにひとつ問題となることが──そう,同人誌の印刷は結構高いのです. たとえばB5・28ページ・表紙カラーというよくある仕様の同人誌を作ろうとすると下記の表のようになります.
部数 | 30 | 50 | 80 | 100 | 150 | 200 | 250 | 300 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
価格〔円〕 | 13000 | 15600 | 19500 | 22100 | 28700 | 35200 | 43300 | 49900 |
1 冊当たり〔円〕 | 433 | 312 | 244 | 221 | 190 | 176 | 172 | 165 |
さて,ここから印刷代を回収することを考えてみましょう. 人気ジャンルの二次創作・成人向けなら1冊500円で売れるでしょうが,そうでなければもう少し値段を下げる必要があると思われます. そこで1冊300円で売るとすると最低でも80冊刷ることになります. しかし80冊売り切ったら大したもので,たいていは不良在庫として部屋の一角を占拠し,最後には廃品回収車に載ってドナドナされる将来が容易に想像できます. ということは80部全部を売ることができないので結局これでも印刷代は回収できません.
以上のことから,(一部の有能な人を除いて)同人作家が選ぶべき選択肢は2つ──「趣味と割り切って採算度外視で売り続ける」あるいは「何とかして印刷代を下げる」のどちらかです. 実際,趣味と割り切って売れば売るほど赤字を出す作家さんも多いと聞きますが, それだと記事として面白くないのでここでは「何とかして印刷代を下げる」に焦点を当ててみたいと思います.
お安い同人誌もあるにはあるけれど……
前節では同人誌の印刷がいかに高いかについて述べたわけですが, では同人イベント会場で売られている本がすべて高いかというと実際はそうでもありません. その代表が「コピー本」です.
「コピー本」は,文字通りコピー機を使って印刷された本です. さすがに家にコピー機を置いている人はそうそういないと思いますのでコンビニで印刷することになると思います. そうするとB4白黒1枚10円・B4カラー1枚50円とすれば,先ほどのB5・28ページ・表紙カラー(ただし表紙裏〔表2・3〕は白紙)はB4片面にB5 2ページ分を刷るとして170円になります. しかもこれは1部でも100部でも変わりません. この値段は非常に魅力的です.
では同人誌はコピー本にすれば万事解決かというと,それもまたそうとは言えません. というのも,一般的にコピー本は印刷屋の本に比べて品質が下がってしまうからです. 下図に一般的なコピー本の問題点を示します.
もちろん肝心なのは中身であることはそうなのですが, 同人イベントで本を買う人というのは大量の同人誌の中から買うものを選別するわけでして, 本の品質が低いとそれだけで無視されてしまうことも決して少なくありません.
本記事で述べること
以上述べたように,同人誌というものは印刷会社に頼むと(特に少部数で)印刷代がかさみ,一方でコピー本で安く抑えようとすると品質が下がるという問題があります. そこで本記事では,コピー本をベースにして価格を抑えつつ,一手間を加える事で印刷会社に頼んだものに引けをとらない品質の同人誌を作る方法について紹介したいと思います.
2. クオリティ補完計画・その1:中綴じにする
- 初期投資
- 松:2,273円
- 竹:449円
- 梅:35円
- 1冊当たり追加費用:0円
概説
まずは簡単に品質を上げる方法として「中綴じ」があります. これは週刊誌等に見られる綴じ方で,片面につき2ページ,計4ページ分印刷した紙を半分に折って束ねて,その折り目のところをホチキスで留めるものです. この方法は前節で述べた平綴じと比べるとホチキスの針が目立たなくなるため見栄えが良く,また本を開いたときに中心(業界用語で「ノド」といいます.)まで見ることができるものとなっています.
やり方
印刷
中綴じにするためには,まず印刷を中綴じに対応させる必要があります. 1枚につき4ページ印刷することになるので,ページ数は4の倍数にする必要があります. ページ配置は,紙を半分に折って重ねた時にきちんと1ページから順番に並ぶように注意深く並べます. 方法としては,原稿を1ページずつ印刷してコピーするときに自分でうまく配置してやる方法や, PC上であらかじめそのように配置されたデータを作ってやるという方法が考えられます.
オモテ | ウラ | |||
---|---|---|---|---|
左側 | 右側 | 左側 | 右側 | |
1枚目 | 1ページ | 16ページ | 15ページ | 2ページ |
2枚目 | 3ページ | 14ページ | 13ページ | 4ページ |
3枚目 | 5ページ | 12ページ | 11ページ | 6ページ |
4枚目 | 7ページ | 10ページ | 9ページ | 8ページ |
ホチキス留め
中綴じには印刷データの準備も重要ですが,一番重要な事はどのようにして折り目の部分にホチキスの針を留めるかという点です.
一番楽な「松」の方法は中綴じ用のホチキスを買うことです. ただし,中綴じ用のホチキスは普通のホチキスに比べて筐体が大きく,またお値段もちょっとお高めです (例えばコクヨの中とじ用ステープラー「SL-M41」だとAmazon.co.jpで2,273円*2). もっとも「松」だけあって,この後に紹介する方法に比べると快適さは抜群だと考えられます.
逆に一番手軽な「梅」としては,消しゴムを台座にする方法があります. これは下図のようにホチキスを開いた上で消しゴム(Amazon.co.jpで10個入り345円*2)を台座に針を打つもので, 特殊な機材を用いずに中綴じができる方法です. ただしこの方法は,ホチキスを打つ位置に消しゴムを合わせる・ホチキスを打った後に手で針を曲げる必要がある等,若干の面倒さがあるのが難点です.
ということで著者が最近使っている「竹」の方法は,マックスの「ホッチくる」というホチキス(Amazon.co.jpで449円*2)を使うものです. これは下の図のようにマガジン(針入れ)等の部分が90°回転するホチキスで,紙の端から最大7 cm程度内側までホチキス留めすることができます. 「ホッチくる」は中綴じ用のホチキスに比べて小さく,また普通サイズのホチキスの針(10号)が使える点が魅力的です (逆に言うと10号針で綴じれないほど分厚い本には使えません). ただし先に述べた通り,針を打てる場所は紙の端から内側に最大7 cm程度であるため,B5程度なら大丈夫ですが,冊子が大きい場合にはホチキス留めが不十分になる可能性があります.
まとめ
中綴じをすることでホチキスが目立たなくなり見栄えが良くなります. 中綴じをする場合は片面に2ページを並べて印刷する必要があり,この時ページの配置に注意する必要があります. また中綴じの手法を比較すると次の表のようになります.
手法 | 大型本の製本 | 分厚い本の製本 | 取り扱いやすさ | 簡単さ | 値段 |
---|---|---|---|---|---|
中綴じ専用ホチキス(松) | ○ | ○ | △ | ○ | △ |
ホッチくる(竹) | △ | × | ○ | ○ | ○ |
消しゴム台座(梅) | ○ | × | ○ | △ | ○ |
参考文献
- kizuki,3分LifeHacking:中綴じ製本を行うツールを比較する,ITmedia エンタープライズ,2015年12月6日閲覧.
3. クオリティ補完計画・その2:化粧裁ちする
- 初期投資
- 松:8,900円
- 竹:9,080円
- 梅:1,023円
- 1冊当たり追加費用:“ほぼ”0円(裁断の刃が消耗品のため)
概説
コピー本のクオリティをぐんと上げる方法として,本の端を切断(化粧裁ち)して揃えるという方法があります. こうすることで,端が不揃いなことによるページのめくりにくさが改善され,また見栄えも大きく改善されます. さらにコピー機だとどうしても紙の端が印刷されず余白ができてしまいますが, その余白を無くすように切断をすることで,絵のインパクトを大きくすることができます(特に端まで使って描かれた絵の場合.下図参照).
やり方
化粧裁ちする最も簡単な「梅」の方法は,定規(Amazon.co.jpで430円*2)とカッター(同593円*2)を使って地道にやる方法です. しかし不可能ではないとはいえ,正直なところこの方法では手間が相当かかります. そのため裁断機を使うのが楽なわけですが,「松」である一般的な裁断機を使う方法は確かに裁断は楽にできるものの,裁断機は非常に重く(例:17 kg!),取り扱いや保管にやや難有りです. なお8,900円*2という数字はYG-LNの「BA58A4」という裁断機(通称「中華裁断機」)のものですが,他社製品の場合は2~3万円が相場になっています.
そこで「竹」の方法として挙げられるのが,カール事務器のディスクカッター「DC-210N」(Amazon.co.jpで9,080円*2)を使うというものです. このディスクカッターは天地方向にスライドするカッターが右側に付いていて,これを使って紙を裁断します. DC-210Nのメリットとしては重量が2.6 kgと一般的な裁断機より軽く,取り扱いやすい点が挙げられます.また消耗品も安く,替え刃が2枚で471円,カッターマットが5枚で861円です. 一方デメリットとしては,裁断能力がコピー用紙40枚(2往復)にとどまっており,極端に厚い冊子や,複数冊を一気に切断するといったことは難しいという点が挙げられます. なお,裁断能力がコピー用紙10枚のDC-200Nというモデルもありますが,こちらだとAmazon.co.jpで1,463円*2です.
まとめ
化粧裁ちをすることでフチの余白がなくなり絵のインパクトが大きくなります. 化粧裁ち用の各用具の特徴は以下のようになります.
手法 | 裁断枚数 | 取り扱いやすさ | 簡単さ | 値段 |
---|---|---|---|---|
裁断機(松) | ◎ | △ | ○ | △ |
ディスクカッター(竹) | ○ | ○ | ○ | △ |
定規とカッター(梅) | △ | ◎ | △ | ○ |
4. クオリティ補完計画・その3:表紙をラミネート加工する
概説
今まで述べてきた方法でもコピー本としては随分と品質が上がりますが,まだ印刷会社の本には及びません. その一つに表紙の薄さが挙げられます. 表紙というのは外部との接触が一番多い部分ですので, 通常の本では本文に比べて厚い紙を使ったり,またPP加工等により表面を傷つきにくくしたりするわけですが, 残念ながらコピー本は本文・表紙ともに同じ紙で印刷されることがほとんどです. またPP加工機能なんてコピー機には望むべくもありません.
そこでこれらの問題を解決する手法の一つがTojo氏の紹介する「なんちゃってPP加工」(※リンク切れ)です. これは表紙の片面にラミネートフィルムを貼ることで擬似的にPP加工を再現する手法です. しかしこの手法では,ラミネートフィルムと紙の内部応力の差によってカールしてしまいます. そこでTojo氏は逆方向に丸めてしばらく放置するという手法をとっていますが,これだと完成までに時間がかかってしまう上に,カールを完全に直すには高い技術力が必要です.
そこで,このカール現象を起こらないようにしつつラミネートフィルムによる表紙の耐久性向上の恩恵を受ける手法として, 片面ではなく両面にラミネートする(=つまり普通のラミネータの使い方)手法が考えられます. しかし表紙を普通にラミネートすると紙に比べて非常に硬くなってしまうため,中綴じのために半分に折ることができなくなってしまいます. そこでここではその課題を解決しつつ表紙をラミネート加工する手法について紹介します.
やり方
大まかな流れは下図のようになります.
準備
まずラミネータがないことには始まりません. ラミネータはアイリスオーヤマのA3ラミネータ「LTA32W」がAmazon.co.jpで6,223円*2で売っています. 次にラミネートフィルムを用意します.LOHACOで100 μm厚のA3ラミネートフィルム100枚が1,934円*2で売ってます. ここに挙げた商品がA3用なのは,A3の紙にB4+αの原稿を印刷して端を裁つことでB5サイズの同人誌が作れるためです.
表紙をラミネート加工する
表紙を普通にラミネートします.「なんちゃってPP加工」のように2枚重ねる必要はありません. なおラミネート加工ですが,フィルムや表紙にホコリがつかないように注意してください. うっかりホコリと一緒にラミネート加工してしまうともう取り除くことができません.
表紙を折る
中綴じをするためにラミネートした表紙を折ります. しかしラミネートした紙は固く,普通の紙のように180°曲げるのは難しいです. そこで図7のように折る箇所を2箇所にしてやると,1箇所につき90°だけ曲げればよくなるため,加工が格段に楽になります.
とはいえ,それでもラミネートした紙をそのまま折るのは非常に難しいです. そこで折るべき所にあらかじめカッター等でスジを入れてから折る必要があります. このスジ入れですが,カッターの刃を使うと力の入れ過ぎでラミネートフィルムを切断してしまい,折った時に表紙の紙がむき出しになることがそこそこの頻度であります. もちろんテクニックの問題なので頑張れば何とかなりますが,これだと安定性に欠けます. そこで参考文献に挙げたOKWaveのページの回答No. 4にあるように,カッターの刃側を使う代わりにカッターの背側を使うことをオススメします. 背の方を使うと力を入れてもラミネートフィルムを切断することがないので成功率が高くなります.
なお上記のような手法を使ってもまだ90°曲げることは難しく,表紙が半開き状態になることもありますが,それは後の工程で対応するのでここでは気にせずに次の工程に移ります.
表紙と本文をホチキスで留める
表紙を折ったら次に本文と合わせてホチキスで留めます. このときラミネートフィルムはA3より一回り大きいため表紙と本文で紙のサイズが異なっており,本文の位置を合わせるのが難しくなっています. そこであらかじめゼムクリップやメンディングテープを使って位置合わせをしておくとホチキス留めが楽になります.
表紙を完全に折る
この段階でだいぶ完成形に近づいてきていますが,先ほども述べた通り表紙が折り目で完全に曲がっていません. そこでこの折り目の部分を一時的に熱して柔らかくして,そこで一気に折ってしまうという工程を行います. なおこの工程をホチキス留めの前にやらないのは,この工程を経ると今度は表紙が開きにくくなって本文と合体させる作業がやりにくくなるためです.
ラミネートフィルムを熱する方法として,アイロンを使うというのが一つの方法です. 折り目に当て布を被せ,その上からアイロンをしっかりとかけます. これをオモテ表紙側とウラ表紙側の両方から行います. このとき温度が高すぎるとラミネートフィルムが変形してしまうので,事前に実験用の表紙で最適な温度を調べておくとよいでしょう. ちなみに著者の場合はアイロンの温度を「中」に設定しました. また本文をレーザプリンタ等で印刷している場合は,あまり時間をかけて熱すると本文のトナーが加熱されて接着剤のようにページ同士をくっつけてしまうので,加熱時間に注意しましょう (著者の場合は片面 8 秒くらいにしています).
なお,著者は従来はガスコンロであぶるという方法を使っていましたので,こちらも紹介しておきます. B5同人誌の場合,火から5 cmくらい離した状態で1冊につき8秒くらいあぶるとうまく熱されてくれます. コンロで熱した後は,タオルを被せた上で急いで手で擦る,あるいは上から重石を載せる等の方法で折り目に力を加えます. こうすることで表紙が折り目で完全に曲がってくれます.
化粧裁ちする
この段階でほとんど完成品になっていますが,このままだと端にラミネートフィルムが残ったままになっているので化粧裁ちをする必要があります. これで完成です. 化粧裁ちの方法については前節を参照してください. なお完成すると下の写真のようになります.
まとめ
表紙の耐久性を上げるために表紙をラミネート加工する方法を紹介しました. 特にラミネート加工した表紙は折り曲げにくいため,カッターの背でスジを入れ,さらにコンロで炙って完全に曲げるところがポイントです.
参考文献
- Shiho Tojo,コピー本の作り方/ラミネーターで「なんちゃってPP加工」,2015年12月6日閲覧.
- OKWave,チラシの折り加工について,2015年12月6日閲覧.
5. 印刷会社との比較
さて,ここまで「安くてそこそこのクオリティの同人誌」の作り方を書いてきましたが, このやり方で作った冊子と印刷会社に頼んだ冊子とを比較してみましょう.
値段
まずは今回の企画の発端となった「値段」について比較してみましょう. B5・28ページ(表2・3は印刷しない)・表紙カラー・本文モノクロ・30部という条件で比較してみると, 印刷会社(ねこのしっぽ)で1冊当たり439円のところ, 今回紹介した手法では1冊当たり219円になります(印刷代はA3カラー80円・A3モノクロ10円〔ファミリーマートの値段〕で計算). しかもねこのしっぽの439円はPP加工なしの値段で,PP加工ありにした場合,表紙印刷がオフセット印刷になることもあり,1冊当たり1,165円(!)になります. こう考えると今回紹介した手法がかなりお得であると言えましょう.
一方今回紹介した手法では中綴じ用ホチキス・裁断機・ラミネータが初期投資としてかかります. ホチキス・裁断機に「竹」のオプションを選んだとすると合計16,176円かかるので,この道具を使って発行する全冊子の数でこれを割ってやる必要があります. 例えば全部で100冊印刷するとすれば,1冊当たり162円がさらに追加されるので1冊当たり381円になります. しかし200冊刷る気であれば1冊当たり81円の追加で済むので1冊当たりは300円になります. このようにやる気次第で初期投資の影響をかなり小さく抑えることができます. なお機械の寿命について明確なデータは持ち合わせていませんが,少なくとも250冊以上この手法でやっていまだに壊れていません. どんどん本を出しましょう!
品質
コピー機も品質がそこそこ良いので,少なくともオンデマンドの印刷会社とはあまり差がないかと思います. しかし一点,どうしても印刷会社に敵わないところがあります──それは表裏の位置合わせです. 通常のコピー機だとどうしてもオモテ面とウラ面で数mm程度の位置ズレが発生してしまうため,それをあらかじめ覚悟した原稿の作り方をしておかないと,中綴じのために紙を半分に折ったら見開きの真ん中(ノド)付近の文字が欠けて読めなくなった等の事態になることもあります. こればかりはコピー機で安く済ましている代償として諦めるしかありません.
手間・時間
印刷会社に頼めば多少時間はかかるものの待っているだけで完成品が届きますが,今回紹介した手法は当然のごとく自分ですべてをしないといけないので手間が半端ないです. 著者の実績ではコピー済みの紙の山から製本するのに1冊辺り5分程度かかっているので,30部なら150分 = 2時間半かかります. 正直修行している気分です. 仮にこれが100部とか言い出すと大破したうちの青葉ちゃん(Lv. 98)が入渠している間の暇つぶしができる程度に時間がかかります. 要は,印刷会社の料金のうち製本の部分を自分の時間と変換していると言えるでしょう.しかも低い時給で. このことから,今回紹介した手法は少部数向けだと言えます.
6. まとめ
この記事では,同人誌を出そうにも印刷会社は(特に少部数で)お値段が高く,かと言ってコピー本では品質が低くなりがちという現状を踏まえ,「安くてそこそこのクオリティの同人誌」の作り方を紹介しました. 今回紹介した手法を使えば,印刷会社の冊子に品質面で劣らないどころか勝る点もあるような冊子を低コストで作製することが可能です. この手法は特に少部数の印刷に適しているので,同人誌を一度出してみたいけどお金が気になるという方に是非とも試していただきたく思います.
おまけ①:さらに安く抑えるために
印刷代
今回の試算はコンビニ等でのコピーを前提にしていますが,ネットを探せばもっと安いところがいろいろと見つかりますので,そちらを使うのも手です. 著者の利用実績のあるところだと,カラーなら「カラー冊子ドットコム」(A3片面1枚16円!*2), モノクロなら「総合情報企画 萌」(こちらは発注枚数によって値段が変わりますが,30枚ならA3片面1枚5.7円!*2)辺りがオススメです. ただし,こういう印刷屋さんは「公序良俗に反する」印刷はお断りされるっぽいので成人向けの原稿を考えている人は使えないかもしれません. また,こちらは当然のごとく締め切りがあるので,イベント前日の深夜に原稿を仕上げるといった荒業は使えません.
道具の初期投資
1万6千円の初期投資が気になる方は,同人誌発行以外でも使ってみてはいかがでしょうか? 特にラミネータは,ラミネートフィルムの単価が安いのでラミカ(ラミネートカード)を作って頒布することで多少は投資回収に役立ったりするかもしれません. また裁断機は自炊(書籍の電子化)用にも使えるそうなので,自炊を主目的として買うのも一つかと.
おまけ②:さらにクオリティを上げるために
角丸加工
この記事を読んで実際に冊子を作られた「さきん」様から角が尖っていて痛いので,角丸加工をした方が良いのではないかという提案を受けました. 角丸加工にすることで安全上の対策になるだけでなく見栄えも個性的になるので,余裕があるときはチャレンジしてみると良いと思います. かどまるPROなどのコーナーカッターを使うと良いのではないかとのことですが, 角丸加工は化粧断ち後になるので本の厚みを考えると何回かに分けてカットすることになると思います(どなたか実際にやって報告してもらえると助かります). あるいは値がかなり張りますが業務用コーナーカッターを使うのも楽でいいかもしれません.
脚注
- (有)ねこのしっぽ・オンデマンドのぱっく(中綴じ)・表紙フルカラー・B5・28ページ(2016年9月3日閲覧)
- 2015年12月6日時点の価格.
- 2016年9月3日時点の価格.